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OjohmbonX

創作のブログです。

修学旅行のおもいで

「そうそう。夜になるとみんなで枕投げしたり、好きな女の子の名前を言いっこしたり」
「うちの小学校はハイブリッドだったなあ」
「わあー、何それエコっぽい! 詳しく教えて!」
「好きな女の子の名前を言って、その子を部屋まで連れてきて、告白してから、みんなでその子を投げ合うの」
「すごい! ケガしちゃうよー」
「うん。結構死んじゃう女の子もいたよ」
「こわーい。打ち所わるーい」
「でも女の子を死なせたらクラス全員も死ぬことになってるから大丈夫だった」
「連帯責任すごい。古き良き日本のすがた」
「例えば女の子が柱に激突して死んだら、みんなもその柱に自主的に激突して死ぬの。死ににくい人は、何度も、何度も、激突するよ。死ぬまで」
「たんこぶできちゃうね」
「だから、みんな死にたくないから、本当に好きな子じゃなくて、死ににくそうなゴツイ女の子を選んでたよ。うちのクラスで一番人気あったのが……うーん、本名は忘れちゃったけど、あだ名が『不沈艦』だった女の子で、7人くらいに指名されてボロボロになったけど、結構ぴんぴんしてた。『もうー。男子ー。あたしだって死ぬときゃ死ぬんだゾ』って言ってたけど、けっこう大丈夫だったよ」
「かっこいい!」
「でもぼくは、やっぱりウソを言いたくなかったから、本当に好きな子の名前を言って、その子の前で告白して。そしたらオッケーだった。もうびっくりして、うれしくて、思いっきり投げたら、死んだ」
「わちゃー」
「柱にぶつかっちゃって……もうぼくね、しまったーって思った。死んじゃったら、終わりだからね。人の命は地球より重い。みんなにも申し訳なくて、連帯責任だけど、明らかにぼくの責任だから、ほんとうに、恐る恐る振り返ったら、クラスメートたちはみんな笑って『いいぜ。気にすんなよ』って言って、どんどん死んでくれたから、よかった」
「ほんとうの、仲間だね」
「だからぼくは今ここ、天国にいるってわけ」


 日阪小学校6年2組の生徒35人の中34人がこうして死に至った。しかしただ1人生き残った者がいた。不沈艦である。不沈艦は柱に身を、頭を、どの同級生にも増して激しく強く打ち続けていたが、ついに夜が明けた。不沈艦は絶望した。私は死ねぬのか。私はこのまま死んだ生を生きる外ないのか。涙を流さず泣く不沈艦に再び生を与えたのは、後の師匠・皆川親方である。修学旅行生たちと同じホテルに宿泊していた親方は、不沈艦の決死のテッポウを夜通し見ていたのであった。そうして不沈艦に、中学卒業後、自らの部屋への入門を厳命したのである。
 言を俟たぬがそうして入門した彼女こそが後の、幕内在位85場所(最高位関脇)を勤め上げ、横綱白鵬に引導を渡した空前絶後の女力士・不沈艦である。