OjohmbonX

創作のブログです。

ともみあたしともみ

あたしとともみって親友じゃん? てか神友じゃん?
だからはっきり言うんだけどー。あたし、ともみのこと嫌いってかんじする。
あ、ちがうちがう、嫌いってっても、いい意味で嫌いだから。
だーょ。あたしたち神友じゃん? わるい意味で嫌いだったらそれって神友じゃなくない? それって敵だし。
で、なんで嫌いかっていうと、くさいから。
ともみってくさいよ? 小さいときからくさくない?
セミ炒めたみたいなにおいするじゃん。
えー? 今知ったの?? うけるー。
うけるんですけど。
あたしさぁー。
ずーっとともみがわざとセミみたいなにおいさせてるって思ってて。ちがうとかびびるよね。自動的にセミ臭いとか。
あ、でもでもぜんぜんイケてるってー。あたしがショップの店員ならそう言う。
あたしはともみのこと嫌いだし、みんなもともみのこと嫌いだけど、夏になると、すっごいいっぱいオスのセミ、いっつもともみにたかってるじゃん?
あたしキモすぎてそれ見ていっつもゲボしてるんだけど、でもそれってともみのオンリーワンじゃん?
やばいよ。
たぶんともみ、セミの雑誌の読モになれる。
あたしそしたらすぐみんなに自慢する。
エビちゃんみたいなかんじでセミちゃんって呼ばれるんだろうな。ともみ。
いつもCanCamはファミマで買ってるけどセミの雑誌もファミマに売ってるのかな?
わかんない。
あ。
なんかあたし、急に胸が苦しいかんじする。
ともみが読モになるじゃん?
世界中の読者がともみに熱中するじゃん?
きっと小学生の女の子とか、土の中のセミの幼虫とかみんな、ともみにあこがれる。
ともみみたいな読モに、あたしなりたい! なる!
あたし、セミになる!
って。
でもあたしはそれを知らない。
あたしの知らないところで、世界のあこがれがともみに向かって、大きくなってく。
だってファミマにセミの雑誌が売ってないからあたしわかんない。知らない。
あたしが知らないとこで、ともみがどんどんスターになってく。かがやいてる。全身をセミにおおわれて、ギラギラしてる。ミンミンゆってる。あたしの目も耳も、こわれそうなくらい。ともみ!
どうしよ?
あたし息できない。
ともみがもっとスターになって、めざましテレビに出たら、あたしめざましテレビはマジで見てて、でも三宅アナはきらいだから、三宅アナが映ってるあいだはビデオに切りかえて真っ黒の画面を見てるんだけど、それでともみがスターになったこと、あたしわかると思う? そんなことない。それって夢みすぎ。
ともみはテレビに出れない。
だってすっごいクサいよ。
心臓がおえって出てくるくらいキモいもん。
テレビからでもたぶん激におってくるとおもう。
あたし地デジカにおそわったんだけど、ここさいきんスカイツリーからテレビのビームが出てるらしい。
東京タワーってあたしらが生まれる前のタワーだから、ビームのパワーがへぼくて大丈夫だけど、ツリーはたしかアメリカのオバマの技術でビームを出してるから、パワーがすごくて、テレビが爆発する。それで中からともみのにおいがでてくる。
スカイツリーって日本と、たしかあとロシアにもテレビのビームを発射してるから、日本の人類とロシアの人類あわせて80億人のテレビが爆発して、ともみのセミ臭で死ぬ。
それってひどくない?
日本人は死んでも当然だけど、ロシアってさむいからセミいないのに、本物のセミを知らないまんま、日本の夏のにおいで死ぬんだょ?
脳みそが鼻とかからびゅーって出て、ロシア人とかが死ぬ。t.A.T.u.とかも死ぬんだょ?
それってぜったい、ひどい。
だから、ともみはテレビにでれない。
だから、あたしはともみのことを知らなくなる。
ずっと子供のころからいっしょだったともみ。あたしから勝手にいなくなる。
そういうことかんがえると、
あたし息できない。
夏が終わるとセミがぽろぽろ死んでくね。
その透き間からともみの素肌があらわになってく。
みんなの熱狂が少しずつ冷めてく。夏の終わりといっしょに。
ともみはセミの読モから一人の女の子に戻ってく。
あたしのところに戻ってくる。
セミのさなぎを脱いでともみは生まれ変わる。夏が過ぎるたびともみは生まれ変わる。
透き通るみたいにきれいなともみ、ゆるやかにふくらんだ胸にあたしは触れる。
くっさー。
なつかしい匂いに記憶がいっきにほどかれる。
ぁあ、ともみ!
ともみー。ともみー。
あたしやばい。
あたしたち神友だょ。ともみのこと大ッきらい。ずっと、ずっと一緒だよ! げぇーっ
どぼびぃー。どぼびぃー。
ばだじい
好き。
大じゅぎいっ 愛じどゅー



 子供のころからの親友であるともみさんについてご相談とのことです。ともみさんは蝉のような匂いを発しており、そのため夏を迎えるたびに全身が蝉に覆われるそうですね。あなたは、ともみさんがそれを苦にする様子もなく受け入れていることに不審を感じておられます。たしかに嫌悪感を覚える人が多いでしょう。あなたがともみさんに何かしらの精神疾患を疑われ、心配されるのは無理からぬことかもしれません。
 ともみさんは小さいころから臭かったとのことですが、当時から夏には蝉に覆われていたのでしょうか。また幼稚園や小学校でそれがもとでからかわれたり苛められたりしたことはなかったでしょうか。あるいは彼女の両親のいずれかからそれを詰られたりしたこともあったのかもしれません。詰られないまでも、かすかな落胆や不快を両親の表情に読み取ってしまえば彼女の小さな心は傷ついたことでしょう。そういった辛い体験から自身の心を防御するための方法の一つとして子供が、その事実を存在ごと否認するということは十分に考えられることです。つまりともみさんは自分の体から蝉臭がするという事実を葬ったのかもしれません。実際にあなたが蝉臭を指摘したときに、ともみさんはその事実を「今知った」とされています。
 心理的な外傷を伴うような出来事に接した子供がその記憶を抑圧し、本人の意識としては忘れ去っているという事象はよく見られます。ただしともみさんがやや特殊であるのは、一過性でないトラウマを現に否認し続けている点にあると言えます。彼女にとって心を傷つけられる原因である蝉臭はまだ解消されていません。それにもかかわらず恒常的に忘れ続けることでかろうじて精神の平衡を保っているというのは、知らず知らずのうちに強いストレスがかかり続ける状態となっています。



なんかブタの鳴声がさっきからするんですけど?



 自身から蝉臭が香っているという事実を認知し、その自分自身を受け入れるようなトレーニングを専門家の下で実施されることをお勧めします。あなたがともみさんに、それを望んでいることを伝えて下さい。



あたしはともみに何も欲望してない。ただともみがいる。あたしはともみを大嫌いで、愛してる。それだけ。



 一方でともみさんについて次のような疑問が生じます。ともみさんは実在するのでしょうか。身体から蝉の臭気を放ち、毎年全身を蝉に覆われる少女というのはいかにも空想的な存在のように思われます。ともみさんはあなたの想像が生み出した存在ではないでしょうか。
 この相談自体も、あなただけがともみさんにとって特別な存在であり得ることを確かめるためのものではありませんか。



なんかさっきからブーブー鳴いててうるさい。



 しかしご心配には及びません。これは決して珍しいケースではありません。しばしば健康な子供たちの間で頭の中から他人の声が聞こえるという事象が認められています。それは同性であったり異性であったり、あるいは少し年長であったりとまちまちです。そして子供たちはその頭の中の「友人」に名前を付けている場合があります。これらの友人は想像上の友人、イマジナリーフレンドと呼ばれています。あなたの場合は「ともみ」さんでした。そういった存在は小児の成長に合わせて消えていくケースが大半です。
 「ともみ」さんがやや特殊なのは、高校生になったあなたの中にまだ確固として存在しているということです。「ともみ」さんについてはイマジナリーフレンドの範囲を超えていると思われます。



「ともみ」って何? 勝手に括弧でくくって分かったみたいなつもりでいるんじゃねえよ。ブタ野郎。



 落ち着いて下さい。豚はあなたです。鏡をご覧下さい。豚そっくりです。
 「ともみ」さんは実在しません。そのことにあなたは自覚的なのではありませんか。



小さいころにともみのこと、お母さんに話したことある。
お母さんはびっくりした顔してともみのこと誰にもいうなって言った。



 当初は曖昧だった「ともみ」さんですが、おそらくあなたの空想などと混合して次第次第に強化されていったものと思われます。ついに愛しているとまで口走る始末です。豚顔の女と蝉臭い女のアベックなど冗談が過ぎるのではないでしょうか。幸いあなたは「ともみ」さんがあなたの中にだけ存在しているという事実をご自身で理解しておられるようです。これからは私と一緒に「ともみ」さんを消す治療をされることです。かなりの長期に渡って「ともみ」さんを強化されてきたようですので、消去にはやや時間がかかるかもしれませんが、根気よく続ければ問題なく「ともみ」さんは消えていきます。



ブーブー三流の音がする。



 うるせぇのはお前だよ。ぜひ落ち着いてください。豚はお前なんだよマジで。「ともみ」さんはあなたの精神疾患による存在です。このまま放置しておくと他の病気への発展の恐れがあります。



病気とか。あたし知らない。どうでもいい。
セミの匂いもかいだことないくせに。だから三流。安全なとこで勝手に言ってる。



 勝手なこと言ってるのはお前も同罪。「ともみ」さんはあなたの病気が生み出したただのイメージであって実際には存在しません。



ともみがあたしの頭の中にしかいないから何? それでいないとかおかしい。
あんたもあたしも、べつにともみよりぜったいいる、っていうことない。



「ゆっこ、ゆっこー。ご飯!」



 母親に呼ばれて由起子は、精神科医の「先生」を仮想してともみを強化する作業を中断して階下へ降りていく。この作業を始めた当初は「先生」を身勝手に利用することにかすかな呵責を感じていたものの、すぐに消費することに慣れていった。何人もの「先生」を使い捨ててそのたびにともみが確実に存在していくような気がする。
 ときどき由起子は、声だけでひたすら話し続ける「先生」に嫉妬のようなものを感じることがある。本当はともみに声をかけてほしい。身にまとったセミのミンミン言う声が秋になってはがれていってもともみは決して由起子に声をかけはしない。由起子は幾度となくともみに話をさせようという誘惑にかられたけれど、決してそうはさせなかった。もしもそうした瞬間、ともみが「ともみ」になってしまうのだから。だからただひたすら待つ。ともみがふいに、由起子と無関係に声を発するまで由起子は待つと決意している。
 そのはるか遠い声を導くために、それが正しい方法かもわからないまま由起子は、大量の「先生」を召喚してともみを確実なものにする作業を続けていたのだが、もう終わりかもしれないと思っている。恐らく自分の力が足りないせいで精神科医の「先生」は実際、三流なのだ。もう今ではともみをはっきりさせるのに役立たない。「先生」の次を見つけないといけない。そのときまた、「次」を利用する自分の身勝手さに嫌気がさすのかもしれない。けれどそれでやめるわけにはいかない。だって。だってあたし、とも、ともみ。ばだじっ! どぼびぃーどぼびぃー
あ、くっさ。
愛じどゅー