OjohmbonX

創作のブログです。

スカウトかもしれない

 上司に怒られた。
「お前は積極性がない正社員だからダメだぞ。だから30歳にもなって、お嫁さんがいないんだぞ」
 その通りだと思った。ぼくは3年前の冬、同僚のきれいな女の人に夜の海辺で「好きです」って言われてすごくびっくりしたから、そのまま女の人を海に投げ捨てて逃げたのを思い出した。いきなりぼくをびっくりさせる女の人もひどいけど、ぼくもひどいことしたなあと思う。いくらびっくりしたからって、せめてビート板くらいセットにしてあげればよかった。そういう積極性がないからダメなんだ。女の人をいきなり海に投入するのは悪いことだけど、ビート板も一緒に投げてあげるのはやさしくて良いことだから、プラスマイナスゼロになって、結局ぼくは何もしてないのと同じことになってOKだったのに。ひどいや。
 あの女の人、今どうしてるかな? 怒ってるかな? それとも死んでるかな……? 死んでる上に怒ってたら、こわいよ。ダブルパンチだから。
 そんなことより今のぼくは昔と違う。ぼくは新宿に繰り出した。
「お嫁さんきてー」
って叫んだら、シュワルツェネッガーみたいな感じの、普通の女の子が「はーい」って来た。
「州知事?」
「違うよ。お嫁さんだよ」
「そっかー」
「そうだよー」
「何する?」
「ジャンケンしよ」
「いいねー」
 ぼくがチョキを出した。お嫁さんがパーを出した。お嫁さんの負けー。
 昔のぼくだったらこれで終わりだけど、今のぼくはすごい。口パクで「あ・と・だ・し・し・て・い・い・よ」って言ってあげた。お嫁さんはにっこり微笑みながらパーで、ぼくのチョキの人差し指と中指をゆっくり包んでいった。お嫁さんの手に握られた二本の指はあたたかくて、ドキドキした。
「これでグーになったね。私の勝ち。ありがとう。やさしいね」
 お嫁さんはそのままグーをぼくの頬へ猛スピードで飛ばした。ぼくの奥歯と、チョキの人差し指と中指はバキャッてゆった。
「痛いよー」
「どーっちだ?」
ってお嫁さんがゆった。
「何が?」
「脱臼と骨折、どーっちだ?」
「わかんないよ。ひたすら痛いよー」
「正解は両方でした」
 お嫁さんはすみやかに、ジャンケンしてない方のぼくの肩を外した。
「じゃあ相撲とろっか」
 ぼくもお嫁さんもたまたまマワシを締めていたので、よかった。でもぼくは右手の指がぼろぼろだし左肩は外れているので、あっさりお嫁さんに両マワシを許した。もろ差しだ。そのまま新宿アルタまで寄り切られた。笑っていいともだった。タモリさんはすごく行司が上手だった。中居くんも、倖田來未とすごいってウワサで、帽子の下もすごいってウワサだけど、全然やさしかったよ。
 ぼくたちを芸能界に迎え入れてくれたって感じ。ぼくの指と腕はプラプラしてるけど、芸能人になれてうれしい。