OjohmbonX

創作のブログです。

たっくんはいない(2)

 それで二〇一三年になった。お正月に弟の一家がきた。弟と、弟のおよめさんと、弟の息子が二人で一家になってる。あたしはこの人たち好き。みんな優しい。およめさんは小柄でかわいい。かわいいのときれいが完璧に合体してる。いつもにこにこしてて怒ったとこ見たことない。弟は男の中でも背が高い方だけど、あたしは弟と同じくらいの背だからかなり大きい。握力もすごいと思う。でも弟の子供たちはあたしを怖がらない。すごくなついててかわいい。しかも頭がいい。お兄ちゃんが八歳ぐらいの時にあたし、今年と生まれた年を引き算してもほんとの歳になるときとならないときがあるってこと教えた。そしたらお兄ちゃんは、あたしにその仕組みみたいのを説明してくれた。二回きいてあたしはわかったことにした。これって八歳で、年齢や電卓のことを完全に支配してるってことだ。しかも六歳だった弟もとなりで聞いてて一回目でわかったらしくて、すごいと思ってあたし二人の頭をぐしゃぐしゃになでたら、すっごくうれしそうにしたから、あたしもうれしくなって、右うでに弟のほう、左うでにお兄ちゃんのほうをぶら下げて、くるくる回った。みんなで笑って楽しかったな。もう十一歳と九歳くらいで重いからできない。
 一月三日と四日だけいて仙台に帰っていった。仙台ってすごく遠いらしい。だからあたし行ったことない。
 死んだお父さんの部屋で四人分のおふとん片付けてるお母さんをあたし見てた。
 これはあたしの心の中の大切なひみつだけど、あたしたぶん恋してる。品川のビルであたしをつかまえた警官、若い、野生のイケメン。細いけど、力強い。腕をつかまれた感触。もっとあたしに触ってほしい。もっと、ちゃんと。あたし二〇一二年が終わるころも、二〇一三年が始まるころも、今も、彼のこと考えてる。さわやかなタイプ。
 目撃したときに、イケメンだ!ってうれしくなるのはふつうのイケメン。ほんとのイケメンって見た瞬間、もうどうしようもなくなる。目の前でありえないことが起こってるって感じ。そういうイケメンは世界の裂け目。よくマックの店員とかでいる。どうしてスターじゃないんだろ。どうしてあたしと同じ世界にいるんだろ。びっくりする。
 七月になった。すごく汗が出る。みんなかいてないのにあたしだけかいてて恥ずかしい。この汗が流れて川になって、その向こうから彼がやってくる。あたしに会いに! そんな、伝説の季節、七月。渋谷を歩いてたらNHKにきたからNHKもいいなと思った。女子アナになるならフジがいいけど、就職氷河期ってきいたことあるし、このさいぜいたくは言ってられない。
就職氷河期ってことはあたし、わかってます。」
 受付の女、あたしの履歴書みてビビってる。あたし本気の目をしてる。かわいい。女が受話器を耳にあてる。この時点であたしは勝ち組だ。女が部長を呼んだら、あたしは女子アナになれる。女が警察を呼んだら、あたしは彼に会える。どっちでも、あたしの勝ちだ。警察の制服のおじさんがきた。彼じゃない。
「あなた警察?」
「警備員です。」
「そうなんだ。警察を呼びなさいよ!」
 警察きた。彼じゃない。あたしつれてかれた。外は暑い。汗がいっぱい出る。木がいっぱい生えてる。すっごく緑。空が水色。きゅうに涙でてきた。あたしはいつ愛されるの? あたし難しいこと言ってない。就職したい。カレシがほしい。どうしたらいいの? こんなに汗も涙も鼻水もいっぱい出てる。でも足元は水たまりもできてない。川なんてむり。何の跡も残ってない。あたしいないのと同じってことになる? あたしたっくんみたいに触ってほしいだけ。警察のおじさんがティッシュくれた。ビルで会った警察の人にあたし会いたいっておじさんに言った。おじさんはわからないと言った。おじさんは名刺をくれた。夏。みんなのシューカツが終わってもあたしは終わらない。恋と仕事。両方あたしの生きる舞台なんだ。


2012年12月 〜 2012年12月 FBJ(日本のFBI
2013年7月 〜 2013年7月 NHK(女子アナ)


 あたしのマックス魅力をカンペキ表現するには? 履歴書だけじゃない。あたしにはちゃおとCanCamがある。ずっと買いつづけてる。本屋さんにいくと、あたしが持ってるのとちがうちゃおやCanCamになってる。あたしが本屋さんでちゃおやCanCamを買うと、そのちゃおやCanCamがお店からなくなるから、新しいちゃおやCanCamが出てくるんだと思ってたのに、本屋さんに行ってもあたしが持ってるのと同じちゃおやCanCamが置いてあることがある。わけわからない。あたしの家にもうあるのに、なんでお店にまだあるの。あたしが買ったから新しい本がお店に出てくるんだけど、あたしが買ってるのに新しいのが出てこないときがあるのは、体調がわるいってこと。体調がわるいと学校を休んだりする。それと同じで、あたしが買ったのに、ちゃおやCanCam(だけじゃない。本屋に置いてある全部)を裏で支配してるものが体調わるいと思う。だから、支配者が本屋にきてちゃおとかCanCamの新しいやつを置かないっていうことだ。
 体調がわるいときに無理するのはよくないから、本屋の人に文句言ったりしないって決めてたのに、あたしが邪悪なときがあって、本当に怒ってた。いつも出血は少ない方だけど、どうしても一日目と二日目くらいが邪悪になるから、どうして新しい本がないのかって聞いたら、本屋にいた人が、
「ちゃおは三日、CanCamは二十三日に出てくる。」ってゆった。あたしびっくりして
「どうして出てくる日がわかるんですか。」ってゆった。あたしが買う日とか、裏で支配してるものが体調わるくなる日とか、本屋の人がわかるわけないもん。でも本屋の人は
「毎月そうだからです。」ってゆった。
「それって、四月とか五月とか、ぜんぶ同じってことですか。」
「そうですよ。」
「でもそれって、あたしがいつ買うってわかんないじゃないですか。どうやって出てくるんですか。」
 本屋の人はすごく困った顔しててかわいそうだった。あたし最初は邪悪な気持ちで怒ってて、次にびっくりして、びっくりしたとき邪悪な気持ちが消えたから、もう本屋の人をかわいそうって思える気持ちになってた。でもやっぱり、あたしはそういう世界のシステムを解明したい気持ちが強い。本屋の人はシステムのことがわかってなくて困った顔してたけど、あたしががんばって今までで判明してるシステムのことを説明していったら、本屋の人はそうじゃないってことゆった。裏で支配してるものの体調や、あたしがいつ買ったかってことと関係なく、毎月おなじ日に新しいちゃおとかCanCamが出てくる。ちょっと生理と似てるかもしれないって最初思ったけど生理は毎月同じ日じゃないから。
 それでちゃんと毎月新しいやつ買ったらお母さんに怒られた。もったいないってお母さんが怒った。いまは十か月ごとに買ってる。ほんとにそう。毎月出てくるから毎月買わないといけないって、それは思い込みだよね。だから最新号の三月のちゃおとCanCamであたしはあたしを高める。


(つづく)