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創作のブログです。

進研ゼミが見てる

 算数のテスト中にゆうたろうが「あっ」て言って、うちらみんな一気にゆうたろうの方見た。
「進研ゼミでやったやつだ!」ってゆうたろうが言って、みんなくっくす、くっくす笑った。水谷先生が
「静かにしなさい。」って言ったけど、水谷先生もちょっと笑ってた。ゆうたろうはいつも急に笑わせてくるから。授業がおわって北野さんが水谷先生のとこいって
「先生も笑ってたでしょ。先生も笑ってたでしょ。あたし見たもん。先生も笑ってたでしょ。」って言って、水谷先生も進研ゼミのことは知ってたんだって。
「先生も進研ゼミのこと知ってるらしいよ!」って言いはじめて、みんなが先生のところに集まった。
「ねえなんで先生も知ってるの? 先生大人でしょ? 先生のとこにも進研ゼミのマンガ届くの? 大人にも届くわけ?」みたいなこと北野さんが聞いた。ここは北野さんがさいしょに先生に聞いたから、今は北野さんがリーダーになってる。先生は大人で、進研ゼミのマンガは届かないけど、先生が子供のときには届いてて、マンガのこと知ってるっていう。
「先生も進研ゼミのこと知ってるらしいよ!」
 先生が子供のころから、マンガの中だとテストのとき「進研ゼミでやったところだ!」って言ってたって先生が教えてくれて、みんなキャアーって笑った。神野くんがゆうたろうに
「鈴本くんって進研ゼミやってたんだっけ。」ってきいたら
「進研ゼミやってないよ。」とゆうたろうが答えた。
「えー。やってないの?」って神野くんが言うのに、ゆうたろうは当たり前みたいな顔してたから神野くんがゲータゲタ笑って、
「鈴本くん進研ゼミやってないらしいよ!」ってみんなに言った。
「うん。やってない。」ってゆうたろうがまたふつうの顔で言って、みんな水谷先生からゆうたろうの方移動してきてゲータゲタ笑った。だって進研ゼミやってないのに、テストのときやったやつだとか言って、すごく変だし。


 それからゆうたろうは国語のテストとかふつうの授業中でも
「進研ゼミでやったやつだ!」とか言ってみんな笑ってたけど、いつも言ってて、
「なんか鈴本くんいつも言ってるよね。」ということになって、うちらも先生も怒りはじめたのに、ゆうたろうは全然やめなかった。
「ンオォーッ、ンオォォーッ! 進研ゼミに出てきたやつだーっ!」
 家庭科の授業とか、体育の授業とか、掃除中にもきゅうに大声で言ってきてびっくりする。あいつおかしいってなって、普段はふつうだけど、だんだんふつうじゃないときの方が多くなってきた。
「おまえ進研ゼミに出てきたやつだ。」
「えっ。」
 クラスの人の顔みてゆうたろうがそう言った。
「あれ、おまえも進研ゼミに出てきたやつだ。」
 ほかの人の顔みてまたそう言った。みんな、あいつやべえ、あいつやべえってなって、先生に相談して、水谷先生がきて、そしたらゆうたろうが
「先生、先生、おれもね、進研ゼミから出てきたんだ〜。」って言った。
 ゆうたろうは保健室で休んで、ゆうたろうのお母さんが学校にきて、早退して、次の日から3連休で、火曜日になったらふつうにゆうたろう学校にきてて、別に進研ゼミのことは言わなくなって、みんなも黙ってて、そのまま忘れてった。


 でも4年生になってまた同じクラスになって、テストの時間に、ほとんど聞こえないくらいの声で
「進研ゼミで、やったやつだ。」って言ってるの聞いた。びっくりしてとなりのゆうたろうを見たら、ゆうたろうもびっくりした顔して、
「ちがうよ。」と言った。「何も言ってないよ。」と言った。
 ぼくは二人だけのときに、進研ゼミってやっぱ、テストに出るのって聞いたら、ゆうたろうは嬉しくなっちゃって、とまらなくなって、
「この世界の何もかもみんな進研ゼミに出てくるんだ。」って言いだした。でも、
「お母さんとかに怒られるから言うのはがまんしてる。」って言った。こいつやべえと思った。
「ね、みんなにはないしょにしててよ。」
 ぼくはみんなに報告してみんなでゆうたろうのこと無視することにした。


 2学期になって転校生きた。転校生は辺見仁助って自己紹介した。辺見くんの顔みてゆうたろうが
「ああ〜、ああ〜」ってゾンビみたいに言い出したけど、こいつはやべえってことになってるからみんな無視した。ゆうたろうは辺見くんになんかおびえてた。
 自己紹介のあとレクでなんでもバスケットをやった。教室のつくえをみんなどかして、いすをまるく並べて、一人いがい座る。「星座がいて座のひと!」、「血液型がB型のひと!」お題にあたった人は席をたって、席取りゲームして、座れなかったら、今度はその人が真ん中に立ってお題をいう。でも辺見くんはどんなお題でも立たなかった。みんな転校生の辺見くんを立たせるお題を言おうとがんばり出した。「なんでもバスケット」だけは言わずに、なんとか辺見くんを立たせようと思って、「ドッジボールとくいなひと」、「お父さんがサラリーマンのひと」っていくつ続けても辺見くんは立たない。
 ゆうたろうが席にすわりそびれて、まん中に立った。でもなかなかお題を言わない。みんなだまってる。ゆうたろうは辺見くんだけを見てる。辺見くんはずっとにっこり笑って見かえしてる。ゆうたろうは一人でがたがたふるえてる。ようやく口を開く。トンボかよってくらい小さな声で。
「し、し、進研ゼミやってるひと。」
 だれも立たないな、うちのクラスって誰もやってないんだと思ってたら、辺見くんだけ立った。まん中のゆうたろうに近づいてく。ゆうたろうは泣きそうな声で絶叫した。
「うそだ!」
 でも気にせず辺見くんは近づいてく。ゆうたろうが辺見くんを指さして怒ってるみたいに言う。
「お、お、おまえなんて知らない! おまえ進研ゼミで見たことない!」
 辺見くんはもうほとんどゆうたろうの目の前にいる。ゆうたろうは泣きじゃくって問いただした。
「おまえは誰だよ!?」
「ぼくは進研ゼミだよ。」
 みんなびっくりした。あいつ進研ゼミなんだ。
「ぼくは、だから、進研ゼミを『やってる』んだ。」
 ゆうたろうがおしっこを漏らして、くにゃくにゃ床にくずれてったけど、進研ゼミがゆうたろうの肩をガッてつかんで引き上げた。
「じゃあ、行こうか。」


 ふらふらしてるゆうたろうの肩をだいて進研ゼミが教室を出てく。ぼくらもついてく。体育館にきた。体育館にはほかの学年やクラスのひとがいた。どういうメンバーだろ?
「さ、なんでもバスケットの続きをやろうね。」
 体育館にいた人たちが二人のまわりをまるく囲む。みんな冊子みたいのを持ってる。
「あれ、チャレンジじゃね?」
 ぼくらの誰かが言った。チャレンジだ、チャレンジだ。クラスのみんながざわつく。あの人たちはうちの学校でほんとに進研ゼミやってる人たちだ。
「次はぼくの番だね。」
 進研ゼミが宣言する。
「進研ゼミをやってるひと。」
 二人を囲んでた人たちがいっせいにチャレンジを開いて、ふたりに殺到した。1年生から6年生までいた。舞いおどる天女みたいな感じでチャレンジをゆうたろうの顔にふりかざしてく。進研ゼミはゆうたろうに問いかける。
「よく目を開けて見るんだ。このテキストのなかにテストの問題はあるかい?」
「……ない。」
「クラスメイトたちはこの中にいるかい?」
「いない。」
 ゆうたろうはポロポロ泣いてる。会員の人たちはまた円陣に戻ってゆうたろうと進研ゼミのまわりを囲んでる。みんなおだやかにほほえんでる。許し合う顔してる。
「じゃあ最後に、ぼくの目を覗いてみて。ここは君が出てきた場所かい? 君が帰るべき場所かい?」
「ちがう。」
「そうだね。君は進研ゼミに囚われていたんだ。でももう大丈夫だね。」
「うん。」
 会員たちがパチパチ拍手した。進研ゼミがゆうたろうの肩をさすってなぐさめてる。ぼくらも感動して拍手した。
 うちら思った。あいつ進研ゼミの妖精だって。全国をまわって、進研ゼミの闇に飲み込まれた小学生たちの心を解放してるんだ。


 体育館に急に女の大人入ってきた。先生じゃない。なんか赤ペン持ってるからたぶん赤ペン先生。すっごい怒ってる。鬼みたいな顔して足で床をドンドンやってる。
「ああゆうの激おこぷんぷん丸って言うらしいよ。」
「なにそれ。」
 それでうちらのクラスみんなケタケタ笑ってたけど、いきなり赤ペン先生が6年生の木元くんを殴ってたおしたから戦慄した。木元くんはかなりリーダーって感じでサッカーのスポーツ少年団に入っててうちの学校で有名人なのに、いきなり赤ペン先生に倒されたから、うちら恐怖がすごい。
 進研ゼミやってる人たちが、赤ペン先生にどんどん顔を殴られてく。みんなキャアーって逃げてくけど、赤ペン先生は大人だからすぐ追い付いて殴って倒してく。うちらクラスみんな隅っこに固まってそれ見てた。怖かった。
「このバカども、学校にチャレンジ持ってきてんじゃねえ。ああいう乞食のガキが盗み見んだろ。金払ってねえくせにタダで見ようとする、乞食のガキが。」
 赤ペン先生が進研ゼミやってる人たち殴りながら、うちらを指差してそう言った。よくわからなかったけど、乞食とか言われて、それはおかしいと思った。
「私たち、乞食じゃないです。謝ってください。」と北野さんが赤ペン先生に言った。でも赤ペン先生
「殺すぞ。糞ガキ。」と言ってにらんだから北野さんが泣いてしまった。女子たちが北野さんをなぐさめてる。
 赤ペン先生がチャレンジもってた人を全員殴った。体育館でばらばら、殴られた人たちが、上級生も下級生もみんな、床に座り込んでしくしく泣いてる。体育館のまん中で、ゆうたろうと抱き合ってふるえてた進研ゼミに赤ペン先生が目をつけた。
「なに見てんだガキが。お前も進研ゼミやってんのか。」
「ぼくやってないです。」
「じゃあ何なんだ。」
「ぼく進研ゼミです。」
「うるせえ人間じゃねえか。」
 赤ペン先生が進研ゼミをボッコボコに殴った。なんだよ。こいつただの人間かよ。うちらそう思ったね。ゆうたろうは怖すぎてとなりで失神してた。


 辺見はけっきょく人間で、進研ゼミもやってなかったけど、ニンテンドー64というWiiより古いゲーム機を持ってて、ウエーブレースとオリンピック・イン・ナガノがすごく上手かった。辺見のうちに遊びにいくと辺見の弟とかといっしょにそれで遊んだ。ゆうたろうと辺見は仲がよくて、その後、5年と6年も同じクラスでいつも一緒に遊んでて、ゆうたろうがいつもふざけてて、それ見て辺見が笑ってるって感じだった。ゆうたろうは5年生になってから塾に通ってて私立の中学校に行って、うちらは公立の中学校に入ったから、どうしてるんだろうね? もうあんまり思い出さないけどなつかしいな。