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創作のブログです。

日本語教室2

 「おばさん(小母さん)」の広辞苑(第四版)における解説は「(主に年少者が) よその年配の女性を親しんで呼ぶ語。」であり,しかるに人が親しみではなく憎しみをこめて年配の女性を呼ぶのが少なからず見かけられる.例えばこのように.


 自動車の行き違えない程度に細い道路の真ん中を歩く若い女性の後ろを歩みに合わせて走る自動車の運転席側の窓が開かれ中年女性が顔を出して呼びかける.
「ちょっと,すみません.どちらかに寄ってくださいませんか」
「どうしてですかぁー?」
 若い女性が速やかに移動するのを当然と信じて疑わなかった中年女性は一瞬唖然とする.
「どうして,って,あなたが真ん中を歩いていたら,私が先に行けないじゃない」
「えぇっ!? マジ意味わかんないんだけどー,どうしておばさんが先に行くんだよ,あたしのほうが先に歩いてるんだから,あたしが先に行くのが当たり前だろー」
 若い女性の予期し得ない反駁に中年女性は狼狽する.
「ええと,あなたがちょっとどいていてくれたら,私が先に行けるでしょ」
「だから,どうしておばさんが先に行くのかって聞いてんじゃんかよー」
「もし,私とあなたがここから同じ所へ行くとして……,あなたがa分,私が車でb分かかるとして,あなたが私を先に行かしてくれなければ,私は(a-b)分損をすることになるでしょ.あなたがちょっとどいてくれたら」
「なんであたしがおばさんと同じ所へ行かなきゃなんないんだよ」
「そうじゃなくて,それは仮定の話で」
「あんたは得するかもしんないけど,あたしはちょっとどいてる時間だけ損じゃんかよ」
「でも,ほんのちょっとの損じゃない.そうやって譲り合うのが親切っても」
「ああぁぁぁ,マジキレたんですけど.なにそれ? あたしが親切じゃない,意地悪してるって言ってんの? あぁーマジむかつくこのおばさん.もうぜってー譲ってやんないから.さっきまで,どいてやろうと思ってたのに,おばさんがそういう言い方するから,悪いん」
「ちょ,ちょっと聞きなさい」
「はぁああああ? 何命令してんだよ,何様だよ,私が先行くのが当然みたいな言い方したり,今度は命令?」
「ごめんなさい,ちょっと,聞いてね」
「はん,何それ,『聞いてね』ぇ? かわいこぶってんの? その歳で,おばさん?」
 中年女性の運転する自動車の後ろから来た別の自動車のクラクションと,男性の声.
「ちょっと,婆あ,何ごちゃごちゃ話してるんだよ,さっさと進めよ,後ろつまってんだよっ!」
「そこまで言うならさあ,おばさんが寄ればいいじゃんかよ」
 クラクションの音.
「何やってんだよ,さっさと進め! 婆あ!」
「あたしが道路の真ん中歩くからさ,おばさんが端っこに寄れば,OKじゃね?」


 「若い女性」は「中年女性」を「おばさん」と呼ぶが,そこに「若い女性」の「中年女性」に対する親しみは皆無であり,あるのはただ憎しみだけである.一方後ろから来た「男性」は「中年女性」を「婆あ」と呼ぶ.「ばばあ(婆あ)」の広辞苑(第四版)における解説は「老女をののしっていう語。」であり,老女でない「中年女性」に対して用いるのは適切でない.
 しかしながら,僕は「(主に年少者が) よその年配の女性を」憎「しんで呼ぶ」のに適当な語,あるいは中年女性「をののしっていう」のに適当な語を知らぬ(思い及ばぬ)のである.誰か教えて欲しい.