OjohmbonX

創作のブログです。

痴漢あかん

 私は出社途中の満員電車で女子高校生の尻を揉みしだいていた。痴漢である。困ったものである。犯罪である。けしからん。でもやってしまうのである。
 おとなしそうな彼女が目の端に涙をためて私をにらむ。そして中くらいの声で言った。
「あかんわー。やめてーなー。わて尻は弱いねーん。いややわぁ」
 全く関西弁のイントネーションとは異なる、異様な平板さで発せられた。周りの乗客がこちらを向く。私、びっくり。隣の若いサラリーマンが鬼のように睨んでくる。私、つかまるのかしらん。でももしかしたらサラリーマン、私が女子高校生の尻を、同意を得ずにもみもみしていたことに怒っているわけではないのかもしれない。彼女がニセ関西弁を使ったことに怒っているのかもしれない。これは五分五分である。
 私はこの五分五分の賭けに賭けてみることにした。今から私は全力で女の尻を揉む。すると女がニセ関西弁でさらに悲鳴を上げる。もし彼が私の痴漢行為に怒っているのなら、彼は私を取り押さえるだろう。私は逮捕され、社会的地位などを失う。そしてもし彼がニセ関西弁に怒っているのなら、彼は女を取り押さえるだろう。女は逮捕され(?)、私は彼女の尻を失う。いずれにしても私の負けである。
 しかし男には、負けると分かっていても命を賭けて勝負に挑まざるを得ないときがある。それが、今だ。
 全力でもみもみ。
「ぃゃゃゎぁ。尻、弱いねーん、弱いねーん。揉まんといてーなー」
 さあ、どうするサラリーマン! どうなる私!
 ここで男子小学生、突然の登場である。
「その姉ちゃんばっかりずるいわぁ、おっちゃん、わいの尻も揉んでぇなー」
 私は本人の意向に従って、男子小学生の尻を鷲掴み、揉みしだいた。同意を得ているため痴漢行為ではない。
 なんか、賭けに勝ったっぽい。
 それにしてもここは神奈川県東部である。どうしてこうもニセ関西弁が蔓延しているのか。サラリーマンはまだ私を睨んでいる。
 二駅過ぎた。右手に女子高校生の尻、左手に男子小学生の尻、中腰はかなりつらい。しかし私は期待に十分応えたはずだと手を休めたらサラリーマンがもどかしそうに言った。
「わいもして欲しいねーん……」
 第三の可能性だった。私の痴漢行為にでもなく、彼女らのニセ関西弁にでもなく、私が彼の尻を揉みしだいていないというそのことに彼は怒っていたのだ! かわいそうな彼。妬みによる怒り。私は仏の心で、彼の尻を揉みしだいた。慈悲。
 彼はか細く声を漏らした。
「ぃゃゃゎぁ……」
 さーてみんなの期待には応えた。ここで私の降りる駅である。私は会社へ行く。いいことをしたらさわやかな朝。
 電車を降りようとしたところへ、方々から伸びてきた手に掴まれ阻まれた。乗り過ごした。
「わても頼んまっさー」「わても」「わいもやねーん」
 ぬちゃぬちゃのおっさん、干からびたババア、むちむちの妊婦……逃れられない揉み地獄。揉んでも揉んでも終わらぬ無限地獄。
 私は会社に遅刻した。


 このように、痴漢行為をはたらくことで会社を遅刻するなどして社会的信用を失うことになります。従って、痴漢行為をしてはなりません。
 という道理の通らぬビデオ教材を、殺人罪で服役している俺に見せるのはどういう意図なのか。主演は北大路欣也だった。どういう意図なのか。